人間が人生に期待するのではない、人生が人間に期待しているのだ。

前回の記事で、

生き様がのっかっていない言葉に耳を傾ける必要はない、

と書いた。

 

前からずっと読みたかった本があった。

 

フランクルの「それでも人生にイエスと言う」

という本だ。

結構有名な本だから、知っている人もいるかもしれない。

 

 

フランクルといえば、「夜と霧」で有名だけれど、

あのアウシュビッツを生き抜いた精神科医として、

深い考察と壮絶な実体験に裏打ちされた、

まさに「生き様」がのっかった言葉を発している人物だと僕は思う。

 

 

「それでも人生にイエスと言う」

という本は、本当にいい本だ。

間違いなく時代を超えて読み継がれていく名著だ。

 

別に全部を理解する必要はない。

たしかに全部を理解できたほうがいい。

でも、生きる意味についての考察の部分だけでも十分すぎるくらいの

深い洞察を僕たちに与えてくれる。

 

僕はタイトルの「それでも」

という言葉にすべてが言い表されていると思っている。

 

それでも、という逆接に、

たくさんの意味を含ませている。

 

どれだけ、人生が無意味に思えたとしても、

それでも、人生にイエスと言う。

 

どれだけ、死を迎えれば無に帰してしまうのではないか、と思えたとしても、

それでも、人生にイエスと言う。

 

いうならば、絶望からの反転を、

「それでも」という言葉で表現しているのだと僕は思う。

 

生きていたら、絶望を感じること、

人生に対して虚無感を感じてしまうことは、

必ずあるのだ、と。

それでも、絶望を絶望のまま終わらせない、

そういう意志が、「それでも」という言葉に凝縮されている。

 

絶望から始まった希望しか信じないこと、

 

これは僕の人生の教訓だ。

本物の希望というのは、現実に基づいていなければならない。

地に足がついていなければ、その希望はただの希望的観測にすぎない。

だからこそ、現実に絶望しつくした後にも残ってしまった希望。

そこにこそ、本物の希望はあるのだ、という教訓だ。

 

絶望の果てにある希望への鮮やかな反転。

僕はそれしか信じていない。

 

その点では、

フランクルも、戦争や虐殺という現実に絶望しつくして、

それでも、絶望に屈せず、悲観主義に屈せず、

抗い続けた人物なのだと思う。

こういう生き様を貫いた人物の言葉には、

特有の重みと特有の温かさがある。

 

生きる意味についてのフランクルの思想を端的に言い表した詩を、

彼自身が本の中で引用しているので、僕も引用しておく。

 

私は眠り夢見る、

生きることがよろこびだったらと。

私は目覚め気づく、

生きることは義務だと。

私は働く----すると、ごらん、

義務はよろこびだった。

「それでも人生にイエスと言う」24頁より引用

 

生きることは義務だと考えることは、

昔は普通のことだったのだと思う。

今ほど科学が発展していなくて、

もっと信仰心があって、

人間にはどうしようもないことに対する、

敬いや畏れがあった時代には。

 

要するに、人間は傲慢になっているということだ。

人生は自分の思い通りにするべきだと。

人生に期待するのは当然で、人生に意味を期待している。

 

でも、人間の思い通りになることなんてたかが知れているし、

コロナでわかったと思うけれど、

ウイルスは人間にはどうすることもできなかった。

自粛もマスクもワクチンもすべて無意味だった。

人間がウイルスをどうにかしようとする傲慢さが、

ここ数年で明らかになったと僕は思っている。

 

科学が発展してきて、人間は傲慢になり、

人間は畏れや敬いを忘れ、そして人生にまで期待を持つようになった。

 

科学が発展する以前、人間は人生に期待するのではなく、

人生に期待されていた。

もっというと、自然に、神に、先祖に、期待されて生きていた。

人間は期待して生きるのではなく、期待されて生きていたのだ。

何を期待されたのかは、人によるし、

万物のメタファーの中に何を読み取り、

何を感じて受け取るかによっても異なっただろう。

 

ただ、期待される、ということは、

ある種の義務感を感じさせる要因にもなる。

その義務感はネガティブなものでもなく、

重たいものでもなく、苦しいものでもない。

どこまでもポジティブなものだ。

ただ、自我を超えた存在が、

自分に何かを語りかけているのではないか、

何かの期待にこたえなければ、という思いは、

生きる活力につながると思う。

 

何かの期待にこたえるためにすることはなにか?

それが仕える事、つまり仕事だろう。

もっと言えば、働くことだ。

 

何かの期待に応えるために働く。

それは生きる活力に密接につながっている。

 

そういうことを凝縮した詩が、

先ほど引用した詩だ。

 

これほど深い洞察を与えてくれる詩には、

本当に感服する以外にない。

 

そして、フランクルの生き様に、

それがのっかった言葉にも、

感服する以外にないのだ。

 

多くの人にとって、深い洞察を与えてくれる本当に素晴らしい本だ。